ハイキュー!! 第285話 静かなる王の誕生 感想(1)

田中さんの要求に「いいえ」と言った影山が、どんな攻撃を選択するだろうと思っていたんだけど、どうやらそれは的外れな疑問だったようだ。
攻撃を選択するのは影山じゃない。影山の仕事は、スパイカーがどんな選択肢でも取ることができるような美しいボールをセッティングすること。


伊達工との練習試合で、影山が「すげえ良いストレート」と褒めた田中さんのストレートは西谷さんがアンダーで上げたトスを打ったものだった。あの時田中さんは、影山の言葉を「はげまし」だと受け取ったけど、あの時も今回も、影山は言葉で「励まし」ができるほど器用に成長したわけじゃない。
「いいえ」の後にどんな言葉が来るんだろうと考えてたんだけど、影山の言葉はストレートど真ん中、「田中さんの攻撃が必要です」

牛島が一言で五色を立ち直らせたように、影山の言葉も田中さんに踏ん張りどころのエースの覚悟をさせたみたいだ。それは、励ましでも鼓舞でもない、影山にとっては試合の状況と田中さんの状態から導き出した単なる答えで、田中さんにとっては(バレーボールに関しては)絶対的に信頼の置ける優秀なセッターからの有無を言わせぬ信頼の表明だったんだと思う。


伊達工との練習試合で王様に復帰した(?)影山が、春高本大会ではどういう王様ぶりを発揮してくれるのか楽しみにしてんだけど、ぼんやり想像していた王様のプレイは、むしろ宮侑が見せてくれたような気がする。一方の影山くんはといえば、この試合を通してずっと、選手の状態と試合の状況を見極めつつセットアップを組み立てる、セッターとしては多分当たり前といえば当たり前の役割に徹していたように思う。多分その時々でベストと判断したトスを上げてきたんだろう。だから相手に変人速攻もどきをされようがなんだろうが、終始落ち着いてプレイしていた。
ここで田中さんにあげたトスもその中の1本だ。後衛のエースがレシーブで狙われる中、困った時のエース頼みで2番手エースの田中さんにトスを上げ続けたわけじゃない。

それでも、最終盤、相手のマッチポイントという場面だ。1本落とせば負けるこの場面で、自分のトスで狙った通りのプレイを田中さんにさせた。狙ったと言っても、最後の選択肢はスパイカーにあるということもわかってる。決してギャンブルというものではないんだけど、最後の決定権を自分が握ってるわけじゃないという意味で賭けに出るようなものでもあると思うんだけど、狙い通りの極上ラインショットを見た後でも影山くんは静かだ。

チームメイトが田中さんに駆け寄っていく傍らで、影山くんは一人、思い通りのトスを上げた時の指先の感覚を体に染み込ませるように立っている。